ERS(Energy Recovery System/エネルギー回生システム)とは、マシンが走行中に失うエネルギーを回収し、再び推進力として使う仕組みのこと。
つまり、ブレーキや排気の“無駄なエネルギー”を電気として再利用するシステム。
現代のF1では、ハイブリッドカーの最先端技術が詰まっていると言っても過言ではない。
│ERSの基本情報
ERSは大きく分けて以下の2つの装置で構成されている。
MGU-K(運動エネルギー回生システム)
→ ブレーキ時の減速エネルギーを電気に変換。
回収した電力はバッテリーに蓄えられ、加速時に再利用される。MGU-H(熱エネルギー回生システム)
→ ターボチャージャーの排気熱を利用して発電。
こちらはエンジンやバッテリーに直接電力を送ることも可能。
これらが一体となって、F1マシンのパワーユニット(エンジン+ハイブリッドシステム)を構成している。
│ERSの効果
ERSの出力は最大で約160馬力分(120kW)にもなる。
これは小型車1台分のパワーを、電気の力で一時的に上乗せしているようなもの。
ERSを活用すると:
コーナー出口の加速が鋭くなる
ストレートでの最高速が伸びる
オーバーテイク(追い抜き)を仕掛けやすくなる
ドライバーはステアリングのボタン操作でERSの回生・放出を調整しており、戦略的なエネルギーマネジメントが求められる。
ただ、ERSは非常に複雑な電子制御システムのため、
過熱による出力制限
回収量の不安定化
電気系統のトラブルによるリタイア
といった問題が発生することも。
ピットから「ERSの問題だ」と無線が入ったら、エネルギー回生システムの異常を指している。
│どうやって使っているの?
F1マシンでは、ERSを使用できる時間や量がレギュレーションで制限されている。
例えば、1周で使えるエネルギー量は約4MJ(メガジュール)。
このため、どこで使うか・どこで貯めるかが勝負を分ける。
ストレートで全開放して追い抜くドライバー
コーナーで少し温存して、次の周にまとめて放出するドライバー
ERSは、ドライバーの腕だけでなく頭脳とチーム戦略も試されるシステム。
「いつ使うか」「どこで貯めるか」「どの程度放出するか」。
このすべてが1周1周の勝負に影響する。
かつての“純粋なエンジン勝負”から、
「エネルギーをどう使うか」も勝負の一部になったのが、今のF1だ。
