■ “失敗”からの再出発――ホンダが再びトップへ挑んだ日々

2015年からマクラーレンと組んでF1復帰を果たしたホンダだったが、その道のりは厳しいものだった。度重なるトラブルと信頼性の問題により、両者の関係は悪化し、2017年限りでパートナーシップは解消された。

その後、ホンダはトロ・ロッソ(現レーシングブルズ)との提携を経て、2019年からレッドブル・レーシングとタッグを組むことになった。初めて“トップチーム”にパワーユニットを供給するという重大な責任を背負ったホンダの現場には、並々ならぬ緊張感があった。失敗は許されない、そんな覚悟の中で一人ひとりが挑んでいた。

■ 勝てそうで勝てない――2019年前半戦のもどかしさ

開幕からしばらくは、フェルスタッペンが3位表彰台を獲得するなど、パッケージとしての戦闘力は証明されつつあった。しかし、「勝利」にはあと一歩届かないレースが続く。ホンダにとっても、レッドブルにとっても、そしてフェルスタッペンにとっても、その一勝が喉から手が出るほど欲しかった。

│ オーストリアGP、悪夢のようなスタート

迎えた2019年6月30日、レッドブルのホームグランプリ・オーストリアGP。期待が高まる中、2番グリッドからスタートしたフェルスタッペンだったが、スタート直後にクラッチの問題で大きく出遅れ、一時は7番手まで順位を落とす。会場には一瞬、不安と落胆の空気が流れた。

■ 魔法のような追い上げ——エンジンモードが牙を剥く

中盤、フェルスタッペンは一時的に無線で訴える場面があった。

🔊 Max Verstappen: “No power!”
(パワーが出ない!)

一時的にERSが正常に作動せず、加速できない状況に陥った。これに対し、エンジニアはすぐにトラブル対応に入る。

🔊 Race Engineer: “Fail 3. Fail  3.”
(フェイル3。フェイル3だ)

これは車載のトラブルシュートモード。指示通りステアリングのダイヤルを調整すると、徐々にパワーが戻ってくる。そして次の瞬間、静かだが意味深な指示が飛ぶ。

🔊 Race Engineer: “Engine 11, position 5. Do it when you can. It’s a performance enhancement.”
(エンジン11、ポジション5。できるときにやってくれ。これはパフォーマンスを高めるための設定だ)

まさに“解き放たれた”瞬間だった。攻撃的なエンジンモードに切り替わったRB15は、完全に別のマシンに生まれ変わる。
ストレートでの伸び、ターン出口でのトラクション、そしてブレーキング勝負。誰もが思った——「これがマックス・フェルスタッペンだ」と。

│終盤の死闘、そして歓喜

して迎えた残り数周、フェラーリのシャルル・ルクレールがレースをリードする中、フェルスタッペンが背後に迫る。68周目、ターン3でアウトから強気の仕掛けを見せ、ルクレールとホイール・トゥ・ホイールのバトルを展開。わずかに接触しながらも、フェルスタッペンが前に出た。

このオーバーテイクにはレース後に審議が入ったものの、最終的に「レーシングインシデント」として裁定され、フェルスタッペンの勝利が確定した。

■ 地元優勝、そしてホンダ13年ぶりの歓喜

スタンドのオレンジアーミーが歓喜の嵐を巻き起こす中、フェルスタッペンとレッドブルは、地元オーストリアでの劇的な勝利を果たした。ホンダにとっては、2006年ハンガリーGP(ジェンソン・バトン)以来となる13年ぶりのF1優勝だった。

■ 忘れられないGP、そして2025年へ

この2019年オーストリアGPは、ホンダにとって「再生の象徴」となった。マクラーレン時代の失敗を経て、ようやく掴んだ栄光の一勝。スタッフ一人ひとりの努力と信念が実を結んだ瞬間だった。

そして2025年、再びオーストリアGPがやってくる。
レッドブルとホンダは最後のタッグで「勝ちにいく覚悟」を胸に、あの歓喜をもう一度——。