F1は世界最高峰のモータースポーツ。そこに「自国初のドライバー」として挑戦することはもちろんだが、人種や文化の壁を越えて新たな道を切り開くことは、より大きな挑戦でもある。
この連載「F1フロンティア」では、各国やコミュニティで最初にF1の扉を開いたパイオニアたちに光を当てていきます。

その第6回は、F1史上初の黒人ドライバーとして登場し、7度の世界王者に輝いたルイス・ハミルトン。彼はただ速いだけではなく、社会的な発言力と行動力を兼ね備え、F1の在り方そのものを変えた存在でもある。

│ドライバー紹介

フルネーム:ルイス・カール・デヴィッドソン・ハミルトン(Lewis Carl Davidson Hamilton)
生年月日:1985年1月7日
出身地:イギリス・スティーブネージ

幼少期からカートレースに親しみ、10歳のときに「いつかメルセデスで走らせてください」と当時のマクラーレン代表ロン・デニスに直訴したエピソードは有名。
その後、マクラーレンとメルセデスの支援を受けながらジュニアカテゴリを駆け上がり、「マクラーレンの秘蔵子」として2007年に名門マクラーレンからデビューした。

│根強かった白人社会の色 

彼はこのスポーツで初めての黒人ドライバーとしてデビューし、それまで「白人社会」としての色合いが強かったF1に大きな変化をもたらした。

長年にわたり、F1はヨーロッパやラテンアメリカ出身の白人ドライバーが中心で、人種的な多様性はほとんど存在しなかった。そんな閉ざされた舞台に現れたハミルトンは、単なる「初の黒人ドライバー」にとどまらず、F1の価値観そのものを揺るがす存在へと進んでいった。

│ルーキーの活躍そして花を咲かす

デビュー戦は、驚くべきことに3位表彰台を獲得。新人とは思えない冷静さとレース運びを披露し、世界中のF1ファンを驚かせた。その後も次々と好成績を重ね、最終的にはわずか1ポイント差でチャンピオンの座を逃したが、それでも新人としてこれほどの成績を収めること自体がF1史上類を見ない快挙だった。

翌年、ハミルトンはわずか23歳でF1ワールドチャンピオンを獲得。デビューからわずか2年でのタイトル獲得は、当時のF1でも最速クラスの偉業だ。黒人ドライバーとして初めてのワールドチャンピオン誕生は、F1における歴史的出来事だった。

最終戦ではハミルトンは最終ラップまでタイトルの行方がわからない接戦を繰り広げた。雨の影響で路面が不安定な中、最後のコーナーで順位を上げ、最終的に5位と1ポイント差でタイトルを獲得した。

│黄金期と記録更新

2013年にメルセデスへ移籍したハミルトンは、ターボハイブリッド時代のF1を席巻する。2014年から2020年までに6度のワールドチャンピオンに輝き、通算7度のタイトルはシューマッハと並ぶ歴代最多記録となった。

彼の強さはマシン性能だけでなく、冷静な判断力、安定した運転技術、そして戦略眼にあった。チームメイトとの競争においても圧倒的な存在感を示し、メルセデスを長期支配チームに導いた。

ハミルトンの黄金期は、F1の記録だけでなく、次世代ドライバーの基準やスポーツ文化そのものにも大きな影響を与えた時代だった。

特に2020年7度目の王者を決めたトルコGPではゴール後の無線が特徴だ。

“That’s for all the kids out there who dream the impossible. You can do it man. I believe in you guys.”

「不可能を夢見るすべての子供たちのために。君たちにもできるよ。僕は君たちを信じている。」

│時代を変える動き

ルイス・ハミルトンは、コース外でもF1の価値観や文化に大きな影響を与えた。

ハミルトンは黒人として幼少期における経験を踏まえ、人種的多様性の重要性を積極的に訴えてきた。特に2020年、世界的に広がった「Black Lives Matter(BLM)」運動に合わせ、彼は自身のSNSやFormula 1で人種差別問題に声を上げ、「We Race As One」キャンペーンを推進した。チームや他のドライバーたちに呼びかけ、F1界全体で多様性や平等の意識を高めるきっかけを作った。

ハミルトンのこうした活動は、単なるスター選手の趣味や余暇の延長ではなく、F1という閉ざされたスポーツ界に多様性や社会的意識を浸透させる大きな力となっている。

│変化を恐れず牽引する力

ルイス・ハミルトンは、単なる記録的なドライバーではない。

サーキット上では7度のワールドチャンピオン、100勝以上の勝利、100回以上のポールポジションという数々の記録を打ち立て、歴史に名を刻んだ。しかし、それ以上に重要なのは、F1の文化や価値観を変えたことだ。彼の存在は、これまで門戸が閉ざされていた黒人やマイノリティの若者に、「自分も夢を追える」という希望を与えたのだ。

さらにコース外での活動も、F1の未来を変える力となりました。人種差別・多様性・環境問題への取り組みにより従来のレーサー像を超えた影響力を世界に示した。

彼が切り開いた道は、未来のドライバーたちだけでなく、世界中のファンや社会にとっても新しい可能性を示した。ルイス・ハミルトンこそ、F1の歴史における「真のフロンティア」であり、これからも語り継がれる存在なのだ。