
F1の解説で「トラクションが大事」という言葉を耳にしたことはないだろうか?
トラクション(Traction)とは、タイヤが路面をしっかり捉えて、その力を推進力に変えることを指す。
クルマが「進む・曲がる・止まる」すべての動きに直結する、レースに欠かせない要素。
簡単に言えば「タイヤのグリップを使って前に進む力」。
たとえばスニーカーでアスファルトを蹴れば前に進むが、氷の上ではツルツル滑って空回りしてしまう。
これがまさに「トラクションがある状態」と「ない状態」の違い。
││なぜF1で重要なの?
F1マシンはおよそ1,000馬力近いパワーを持つ。(市販の乗用車は150馬力程)
しかしトラクションが弱いと、タイヤが空回り(ホイールスピン)してしまい、力を路面に伝えられない。
特に重要なのはコーナーの立ち上がり。ここで強いトラクションを得られると、次の直線で一気に加速でき、追い抜きや順位争いに大きな差が生まれる。
│トラクションを左右する要素

タイヤ:コンパウンドの柔らかさや摩耗具合で変化
路面状況:雨や砂利、気温によってグリップが低下
マシンのセッティング:サスペンションの硬さやダウンフォースの量が影響
ドライバーの操作:アクセルを丁寧に踏めるかどうか
つまり、マシン・環境・ドライバーの3つが絡み合って決まるのがトラクション。
│トラクションが失われるとどうなる?

ホイールスピンで加速できない
コーナー出口でスライドしてタイムロス
タイヤの摩耗が進み、さらにグリップを失う
レース中に「トラクション不足で苦しんでいる」と聞こえたら、こうした現象を指している。
│トラクションコントロールとの違い

「トラクションコントロール」とは、電子制御でタイヤの空転を防ぐ画期的なシステム。
市販車には当然の如く搭載されているが、F1では2008年以降完全禁止されている。
つまりF1ドライバーは、アクセルワークとマシンコントロールだけでトラクションを管理しなければならない。
この操作の繊細さこそ、トップドライバーの腕の見せ所。
「氷の上を走るように滑ってしまう」か「アスファルトを蹴って加速できる」か。
トラクションを制することが、レースを制する第一歩だ。