もし、自分でF1チームを作りたいと思ったら、何から始めればいいのだろうか。
まずはマシンを作る。ドライバーを雇う。スポンサーを探す。チーム名を決める。
一見すると、必要なものをそろえればF1に参戦できそうに思える。
しかし、F1チームを作ることは、レーシングカーを1台用意することとはまったく違う。
F1に参戦するには、技術、資金、人材、設備、パワーユニット、スポンサー、そしてFIAやF1側の承認が必要になる。
さらに、新しいチームが加わることは、既存チームの収益やF1全体の価値にも関わる。
では、もし自分がF1チームを作りたいと思ったら、どんな壁を越えなければならないのか分かりやすく整理していこう。
なぜF1のようなレースはオリンピック競技にないのか
│まず必要になるのは「参戦権」
F1チームを作るには、まずFIAとF1の両方から、
世界選手権の一員として承認される必要がある。
FIAは、競技ルールや安全面を管理する組織である。
F1側は、興行や商業面を管理する側である。
新しいチームが参戦するには、どちらの面でも条件を満たさなければならない。
たとえば、キャデラックは2026年からF1の11番目のチームとして参戦している。
キャデラックは、ゼネラルモーターズとTWG Motorsportsの支援を受けている新チームである。
この例からも分かるように、F1に新しいチームとして入るには、ただ「参戦したい」と手を挙げるだけでは足りない。
新規参入チームは、競技面、財務面、商業面のすべてで、長期的に参戦できる体制があるかを見られる。
│マシン1台ではなく、巨大な組織を作る必要がある
F1チームには、マシンを開発するファクトリーが必要になる。
必要不可欠になる部門だけでもこれくらい必要だ。
・設計部門
・空力開発
・部品を作る設備
・レース現場
・データ分析
さらに、F1は世界中を転戦する。
そのため、マシンや部品を各国へ運ぶ物流体制も必要になる。
1台のマシンを走らせる裏側には、何百人もの仕事がある。
レースで見えるのは、その一部にすぎない。
│とてつもない資金が必要になる
F1チームを作るうえで、資金は避けて通れない。
マシンの開発、ファクトリーの運営だけでなく
エンジニアやメカニックの雇用、世界中のレースに機材を運ぶにもお金がかかる。さらに、F1では毎年マシンを開発し続けなければならない。また、シーズン中も改良を続ける必要がある。
翌年に向けた新しいマシン開発も同時に進めなければならない。
つまり、F1チームを作るには「最初に大きなお金を用意する」だけでは足りない。長く戦い続けるための資金力が必要になる。
また、新規参入には既存チームへの収益分配の問題も関係する。
新しいチームが増えると、F1全体の収益を分け合う相手が増える。
そのため、既存チームから見ると、1チームあたりの取り分が減る可能性がある。
この問題への対応として、新規参入チームには「アンチ・ダイリューション・フィー」と呼ばれる費用が関係する。
キャデラックの2026年参入では、4億5000万ドルのアンチ・ダイリューション・フィーを支払うと報じられている。
簡単に言えば、新チームが入ることで既存10チームの収益配分が薄まる可能性があるため、その影響を埋めるための費用である。
この金額だけを見ても、F1への新規参入がどれほど大きなプロジェクトなのかが分かる。
│ファクトリーと専門人材を集める
F1チームを作るには、必要な人材も幅広い。冒頭でも伝えた部門に必要な人材と加えて下記の人材が必要になる。
エンジニア/メカニック
・空力
・車体設計
・サスペンション周り
・電子制御等
・マシン整備
ファクトリー以外
・ レース戦略
・ドライバーと無線でやり取りするレースエンジニア
さらに、チームを運営するためには、広報、スポンサー営業、マーケティング、法務、財務、物流の担当者も必要になる。
F1チームは、速いマシンを作る技術集団である。
同時に、世界中を相手にする企業でもある。
だからこそ、新規参入チームには、単なる情熱だけではなく、組織を作る力が求められる。
│パワーユニットをどう確保するか
F1チームを作るとき、もう一つ大きな問題になるのがパワーユニットである。
パワーユニットとは、F1マシンの心臓部である。
昔の感覚で言えば、エンジンに近い部分である。
F1では、車体を作るだけではレースに出られない。
マシンを走らせるためのパワーユニットが必要になる。
自分たちでパワーユニットを作る方法もある。
しかし、それには非常に高い技術力と資金力が必要になる。
そのため、新規チームにとっては、どのメーカーから供給を受けるのかが大きな課題になる。
キャデラックは、2026年シーズンはフェラーリのパワーユニットを使用しているが、アウディは自社パワーユニットを開発して使用している。
また、将来的には、自社でパワーユニットを作る構想もある。
しかし、最初から車体とパワーユニットの両方を完全に自前で用意することは、非常に難しい。
F1チームを作るには、マシンの外側だけでなく、心臓部をどう確保するかも考えなければならない。
│ドライバーを雇えば終わりではない
F1チームには、当然ドライバーが必要である。
しかし、ドライバーを雇えばチームが完成するわけではない。
ドライバーは、マシンを速く走らせる重要な存在である。
同時に、マシン開発にも関わる存在である。
ドライバーは、走行中の感覚をチームに伝える。
ブレーキの感触、タイヤの状態、コーナーでの挙動、マシンの安定感などを細かく伝える。
その情報をもとに、エンジニアはセットアップや開発の方向性を考える。
つまり、F1ドライバーは単なる運転手ではない。
チームの開発にも関わる重要なメンバーである。
新規チームにとっては、どのドライバーを起用するかも大きな判断になる。
新しいチームほど、ドライバーのフィードバックは重要になる。
│スポンサーとブランド価値も問われる
F1はスポーツである。同時に、巨大な広告ビジネスでもある。
F1チームを作るには、スポンサーの存在が欠かせない。
マシンに貼られているロゴは、単なる飾りではない。
チームの資金を支える大切な存在である。
スポンサーは、F1という世界的な舞台を使ってブランドを見せる。
チームは、スポンサーからの支援を受けて活動を続ける。
そのため、新しいF1チームには、スポンサーを集められる魅力も必要になる。
さらに、F1側から見れば、そのチームがF1全体にどんな価値をもたらすのかも重要になる。
キャデラックの場合、ゼネラルモーターズという大きな自動車メーカーの背景がある。さらに、アメリカ市場との関係も強い。
つまり、キャデラックは単に「新しいチームが増える」という話だけではない。
F1にとって、アメリカ市場での存在感をさらに高める意味もある。
F1チームを作るには、速いマシンを作る力だけでは足りない。
F1全体に価値を加える理由も必要になる。
│F1チーム作りは、夢と現実の両方がある
F1チームを作ることは、とても夢のある話である。
しかし、現実は簡単ではない。
F1チームを作るには、マシンだけでは足りない。
参戦権、巨額の資金、ファクトリー、専門人材、 パワーユニットの確保、スポンサー集めに F1全体に価値を加える理由も必要になる。
F1チームとは、マシンを作るだけの存在ではなく、世界最高峰の選手権を戦うための巨大な組織である。
だからこそ新規参入は難しい。
もし自分がF1参戦を目指すなら、必要なのは1台のマシンだけではない。
世界を相手に戦い続けるためのチームそのものを作ることなのである。