かつてのF1では、レース中に燃料を補給することが当たり前だった。
※給油は1994年に復活し、2010年まで実施されていた。
ピットに入り、タイヤを交換し、そして燃料を補給する。
それはレース戦略の中心であり、勝敗を分ける重要な要素だった。
しかし現在、F1ではレース中の給油は禁止されている。
なぜF1は、この重要な戦略を自ら捨てたのか。
そこには、「安全」「コスト」「そしてF1の本質」に関わる理由があった。
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│給油は常に危険と隣り合わせだった
給油は、安全管理が求められる高リスクな作業だった。
燃料は極めて可燃性が高い。
高温のマシンの周囲で、数秒で大量の燃料を補給する必要があった。
わずかなミスが、重大事故につながる。
1994年のドイツGPでは、
ヨス・フェルスタッペンのマシンへの給油中に燃料が漏れ、炎が噴き上がった。
クルーが炎に包まれた。
幸い大きな負傷者は出なかったが、危険性を世界に示す瞬間となった。
この事故は、給油が常にリスクを伴うことを象徴していた。
│給油は「レース」を変えてしまっていた
給油は、安全だけでなく、レースの性質そのものにも影響を与えていた。
給油がある時代、ドライバーは常に全力で走る必要はなかった。
燃料を軽くした短いスティントを繰り返すことで、
ピットストップで順位を逆転することができたからだ。
これは「トラック上でのオーバーテイク」ではなく、
「ピット戦略によるオーバーテイク」を増やした。
つまり、勝負の多くがコース上ではなく、
ピットで決まるようになっていた。
FIAは、この状況を改善する必要があると判断した。
コース上での直接的なバトルを増やすことが目的の一つだった。
│2009年、F1は給油の禁止を決定した
2009年、FIAは重大な決断を下した。
2010年シーズンから、レース中の給油を全面禁止したのである。
理由は3つあった。
1つ目は、安全性の向上
給油に関連する火災リスクを大幅に減らすことができる。
2つ目は、コスト削減
給油装置や関連機材は高価であり、輸送や運用にもコストがかかっていた。
3つ目は、レースの本質を取り戻すため
ドライバー同士の直接的なバトルを増やすことが目的だった。
これにより、マシンはスタート時に
レース距離を走り切る燃料をスタート時に搭載する必要が生じた。
│給油の消滅が変えたもの
給油の禁止は、F1を大きく変えた。
ピットストップは、タイヤ交換のみになった。
戦略は、燃料ではなくタイヤが中心となった。
ドライバーは、燃料の管理も含めてレースを戦う必要がある。
マシンは、満タンに近い燃料を積んだ状態でスタートする。
そして燃料が減るにつれて速くなる。
これは、現在のF1の戦略の基本となっている。
│なぜF1は給油を捨てたのか ―― それはF1を守るためだった
給油は、F1の歴史の一部だった。
しかしそれは同時に、危険とコストを伴う存在だった。
そして何より、F1の勝負をコースの外に移してしまっていた。
FIAは、安全性の向上と競技性の明確化を目的として、この決定を下した。
給油は禁止された。
それは、F1の安全性と持続可能性を考慮した決定だった。