F1が開催されるサーキットの中でも、メキシコシティGPは特殊な環境で知られている。
その理由は、サーキットの標高にある。
メキシコシティGPの舞台となるエルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高約2,240mに位置している。これは現在のF1開催サーキットの中で最も高い。
標高が高い場所では空気が薄くなるが、F1マシンにはどのような影響があるのだろうか。
実は、ダウンフォースや直線速度だけでなく、エンジンやブレーキの冷却、ドライバーの身体にも影響する。
メキシコシティGPが特別な理由と、薄い空気がF1マシンに与える影響を初心者向けに解説する。
│メキシコシティGPはなぜ空気が薄い?

メキシコシティGPが開催されるエルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高約2,240mという高地にある。
日本で例えるなら、富士山の五合目付近に近い高さだ。
標高が高くなると、頭上にある空気の量が少なくなるため、気圧が低下する。その結果、同じ体積に含まれる空気の量も減少する。
メキシコシティでは、海抜0m付近と比較して空気の密度が約20〜25%低くなる。
なお、空気に含まれる酸素の割合が大きく変わるわけではない。空気そのものが薄くなるため、同じ体積に含まれる酸素の量も少なくなる。
この空気密度の低さが、F1マシンの性能に大きな影響を与えている。
│ダウンフォースは減るのに直線速度が伸びる?
F1マシンの速さを支える重要な要素が、ダウンフォースだ。
ダウンフォースとは、空気の流れを利用してマシンを路面に押し付ける力を指す。特にコーナリング中のグリップを確保するうえで重要になる。
しかし、メキシコシティGPでは空気が薄いため、同じ速度や空力設定でも通常よりダウンフォースが減少する。
そのため、チームは大きなウイングを使用するなど、ダウンフォースを確保するための設定を行う。
一方、空気が薄いことには別の影響もある。
ダウンフォースが減るだけでなく、マシンが走行中に受ける空気抵抗も小さくなる。
通常、大きなウイングは空気抵抗を増やしやすい。しかし、メキシコシティでは空気密度が低いため、大きなウイングを使用していても高い直線速度を記録することがある。
さらに2026年のF1では、前後のウイングを動かすアクティブエアロが導入された。
コーナーではダウンフォースを確保する「コーナーモード」、指定された直線区間では空気抵抗を減らす「ストレートモード」を使用する。
コーナーではグリップを確保しにくい一方、ストレートでは高い速度が出やすい。
この特徴がメキシコシティGPの難しさであり、面白さでもある。
│薄い空気はエンジンやターボにも影響する

空気密度の低下は、F1マシンのエンジンにも影響する。
ガソリンを燃焼させるエンジンには酸素が必要だ。しかし、メキシコシティでは空気が薄いため、自然に取り込める酸素の量が少なくなる。
現代のF1マシンには、ターボチャージャーが搭載されている。
ターボチャージャーは、エンジンの排気ガスを利用して空気を圧縮し、エンジンへ送り込む装置だ。
この仕組みによって、高地でも自然吸気エンジンと比べて出力の低下を抑えられる。
ただし、薄い空気の中で必要な吸気量を確保するには、ターボの回転数や温度などを考慮する必要がある。
2026年のF1では電動モーターの出力が増え、パワーユニットの構成も変更された。それでも、ターボ付きエンジンが空気密度の影響を受けるという基本的な仕組みは変わらない。
メキシコシティでは、エンジンの出力だけでなく、ターボの運用や信頼性も重要になる。
│ブレーキやエンジンを冷やすのも難しい
メキシコシティGPでは、マシンの冷却も大きな課題となる。
F1マシンは走行中、エンジンやブレーキなどの部品が高温になる。その熱を逃がすために、走行中に取り込む空気を利用している。
しかし、空気の密度が低いメキシコシティでは、冷却に利用できる空気の質量が少なくなりやすい。
そのため、通常のサーキットと比べて冷却性能を確保しにくい。
特にブレーキは、高速から大きく減速する際に大量の熱を発生させる。メキシコシティでは高い直線速度に加えて、薄い空気による冷却効率の低下にも対応する必要がある。
そこでチームは、ブレーキダクトや車体の冷却用開口部などを調整する。
ただし、開口部を大きくすると空力性能に影響する場合もある。
メキシコシティGPでは、マシンの速さと冷却性能を両立させることが重要になる。
│高地はドライバーの身体にも影響する?
標高の高さは、F1マシンだけでなくドライバーの身体にも影響する。
標高が高い場所では気圧が低くなるため、呼吸によって取り込める酸素の量が少なくなる。
そのため、運動中の心拍数が高くなったり、普段より疲労を感じやすくなったりする場合がある。
2024年のメキシコシティGPでは、シャルル・ルクレールも、高地ではほかのレースより心拍数が少し高くなると説明していた。
ただし、身体的に最も過酷なサーキットというわけではないとも話している。
F1ドライバーは日頃から厳しいトレーニングを積んでいるが、メキシコシティでは通常とは異なる環境に対応する必要がある。
│まとめ
メキシコシティGPが特別な理由は、標高約2,240mという高地にある。
空気密度が低いため、F1マシンにはさまざまな影響が生じる。
ダウンフォースが減少し、コーナーでグリップを確保しにくい
空気抵抗が小さくなり、高い直線速度を記録しやすい
エンジンやターボの運用に影響する
エンジンやブレーキの冷却が難しくなる
ドライバーの身体にも一定の負担がかかる
特に重要なのは、ダウンフォースと空気抵抗が同時に減少することだ。
チームは薄い空気に対応するため、空力設定やパワーユニットの運用、冷却性能などを調整している。
メキシコシティGPを観戦する際は、最高速度だけでなく、コーナーでのマシンの動きや各チームの冷却対策にも注目してみてほしい。