F1は世界中で知られるモータースポーツの最高峰だ。
それなのに、オリンピックでF1のようなレースを見ることはない。
「これだけ有名なのに、なぜ五輪競技ではないのか」と不思議に思う人もいるはずだ。
その理由は、人気の有無よりも、オリンピックとF1の競技構造の違いにある。

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│F1は国の代表ではなく、チームの戦いだから

オリンピックは、基本的に国や地域を代表して戦う大会だ。
一方でF1は、ドライバーに国籍はあるものの、実際に争っているのはフェラーリ、メルセデス、マクラーレンのようなチームである。

たとえば同じ国のドライバー同士が別のチームで戦うこともあるし、逆にチームの中にはさまざまな国籍のスタッフが集まっている。
つまりF1は、「日本代表対イギリス代表」のように見る競技ではなく、「どのチームが最も速いか」を争う競技だ。
この形式は、国別対抗を基本とするオリンピックとは性格がやや異なる。

│F1は“人だけ”ではなく“マシン”も競うスポーツである

F1では、ドライバーの実力だけでなく、マシンの性能も勝敗を大きく左右する。
どれだけ優れたドライバーでも、マシンが遅ければ勝つのは難しい。
逆に、強いチームはマシン開発や運用面でも大きな力を持っている。

もちろんオリンピックにも道具を使う競技はある。
ただ、F1のようにマシン開発そのものが競技の中心にあるスポーツは、オリンピックが想定しやすい「選手の比較」を中心にした競技形式とは、そのままでは重なりにくい。
そのため、「国を代表する選手の力を比べる大会」として考えたとき、F1はそのまま当てはめにくい。

│実は、国別対抗のレースは過去に存在した

では、「国別対抗にすれば五輪っぽくなるのではないか」と思うかもしれない。
その考え方に近かったのが、かつて行われていたA1グランプリだ。

A1グランプリは2005年から2009年まで行われたシリーズで、各チームが国を代表して戦う形式を採用していた。
しかも、シリーズ自身が「World Cup of Motorsport」と打ち出していたように、発想としてはかなり“オリンピック的”だった。
さらに、車両を共通化することで、チームごとの機材差をできるだけ小さくしようとしていた。

つまり、「モータースポーツを国別対抗で見せる」という考え方自体は、まったく不可能だったわけではない。
実際に、それを形にしたシリーズは存在していたのである。

│それでも五輪競技にならないのはなぜか

出典:Suzuka Circuit,Olympics.com

A1グランプリのような例があっても、モータースポーツはオリンピック正式競技にはなっていない。
理由はいくつかあるが、正式競技として考えた場合、サーキット、安全設備、医療体制、大規模な輸送といった開催負担の大きさも、課題になりやすい。

陸上や水泳のように、五輪開催都市が比較的共通の枠組みで準備できる競技とは事情がかなり違う。
さらに、F1級のレースは参入コストも高く、世界中の国が同じ条件で参加しやすい競技とは言いにくい。

要するに、モータースポーツは面白さや格の問題というより、オリンピックという大会の枠組みにそのまま当てはめにくい競技だと言える。

│モータースポーツとオリンピックが無関係なわけではない

出典:GT Planet

ただし、モータースポーツとオリンピックが完全に無関係というわけでもない。
IOCとFIAは近年、デジタル競技の分野で接点を持っており、2023年のOlympic Esports Seriesでは、モータースポーツ部門としてGran Turismo 7が採用された。

また、オリンピックとモータースポーツには、1900年パリ大会までさかのぼる歴史的な接点もある。
つまり、現実のF1が五輪に入っているわけではないが、「モータースポーツとオリンピックが交わる可能性」そのものは、今も完全には消えていない。

│まとめ

F1がオリンピック競技にないのは、人気がないからでも、格が低いからでもない。
F1は国ではなくチームが中心の競技であり、ドライバーだけでなくマシン開発も勝負の一部であり、さらに開催の負担も非常に大きい。
そのため、オリンピックの考え方とは少し噛み合いにくいのである。

一方で、A1グランプリのように「国別対抗のモータースポーツ」を目指した例は実際にあった。
だからこそ、この疑問には考える価値がある。
F1は五輪にはないが、「もし五輪でレースをやるならどうなるのか」を想像したくなるだけの魅力を、モータースポーツは今も持っている。