F1中継を見ていると、突然「セーフティカー」や「VSC」という言葉が出てくることがある。

どちらも、事故やトラブルが起きたときにレースを安全に進めるための仕組みである。
しかし、セーフティカーとVSCは同じものではない。

セーフティカーでは、実際の車がコースに入る。
VSCでは、実際の車はコースに入らない。

この違いによって、順位差、ピット戦略、再スタートの流れが大きく変わる。

この記事では、F1のセーフティカーとVSCの違いを、初心者向けにわかりやすく解説する。

なぜF1のようなレースはオリンピック競技にないのか
│セーフティカーとは?

セーフティカーは、事故や大きなトラブルが起きたときにコースへ入る車である。

F1マシンは、セーフティカーの後ろに並んで走る。
その間、ドライバーは通常のレースペースで走ることができない。
追い越しも基本的に禁止される。

セーフティカーが出る目的は、コース上の安全を確保することである。

たとえば、クラッシュしたマシンを撤去する必要がある場合がある。
コース上に大きなパーツが落ちている場合もある。
雨が強くなり、通常のスピードで走ることが危険になる場合もある。

このようなとき、F1マシンを一度ゆっくり走らせる必要がある。
そのために使われるのがセーフティカーである。

【用語集】セーフティカー(Safety Car)
│セーフティカーが出ると順位差が縮まる

セーフティカーが出ると、レース展開は大きく変わることがある。
理由は、全車がセーフティカーの後ろに並ぶからである。

たとえば、トップのドライバーが2位に10秒差をつけていたとする。
通常のレースなら、この10秒差は大きなリードである。
しかし、セーフティカーが出ると、後続のマシンがゆっくりと前に追いついてくる。
その結果、トップと2位の差がほとんどなくなることがある。

つまり、セーフティカーは、それまで広がっていたタイム差を大きく縮める効果を持つ。

トップを走っていたドライバーにとっては、不利になる場合がある。
逆に、後ろを走っていたドライバーにとっては、チャンスになる場合がある。

これが、セーフティカーによってレースが大きく動く理由である。

VSC(Virtual Safety Car)とは

VSCは「Virtual Safety Car」の略である。

VSCでは、セーフティカーのような実際の車はコースに入らない。
その代わり、全ドライバーはFIAが定めた基準タイム、いわゆるデルタタイムを守りながら速度を落として走る。
デルタタイムとは、簡単に言えば「この区間ではこれ以上速く走ってはいけない」という基準である。

つまり、VSCは実際の車を出さずに、全車の速度だけを管理する仕組みである。セーフティカーを出すほどではない。
しかし、通常のレースペースで走るには危険がある。
そのような場面でVSCが使われる。

たとえば、コース脇に止まったマシンを回収する場合がある。
小さな破片が落ちている場合もある。
マーシャルが安全に作業するため、一時的に全車のスピードを落とす必要がある。

このようなとき、VSCはレースを大きく止めすぎずに安全を確保できる。

【用語集】VSC(バーチャル・セーフティカー)
│セーフティカーとVSCの一番大きな違い

セーフティカーとVSCの一番大きな違いは、実際の車がコースに入るかどうかである。

セーフティカーでは、実際の車がコースに入る。
F1マシンは、その車の後ろに並んで走る。

VSCでは、実際の車はコースに入らない。
各ドライバーが、決められたペースを守って走る。

この違いによって、レースへの影響も変わる。

セーフティカーでは、隊列がまとまりやすい。
そのため、前後の差が大きく縮まる。

VSCでは、基本的に各車の間隔は大きく変わりにくい。
全車が同じようにペースを落とすため、セーフティカーほど隊列は詰まりにくい。

簡単に言えば、セーフティカーはレースを大きく動かす可能性が高い。
VSCは、レースへの影響を抑えながら安全を確保する仕組みである。

│なぜVSC中にピットへ入ると得をするのか?

VSC中に注目したいのが、ピットインである。

F1では、タイヤ交換のためにピットへ入ると時間を失う。
通常のレース中にピットへ入ると、コース上のライバルは全開で走っている。
そのため、ピット作業をしている間に大きなタイムを失う。

しかし、VSC中は状況が違う。

VSC中は、コース上の全車が速度を落としている。
ライバルも通常より遅いペースで走っている。

そのため、VSC中にピットへ入ると、通常時よりも失う時間が小さくなる場合がある。

これが、チームがVSC中のピットインを狙う理由である。

もちろん、必ず得をするわけではない。
ピットの位置、ライバルとの差、タイヤの状態、残り周回数によって判断は変わる。

それでも、VSCはチームにとって大きな戦略チャンスになることがある。

│セーフティカー中のピットインも重要

セーフティカー中のピットインも、レース戦略に大きく関わる。

セーフティカー中は、全車がゆっくり走っている。
そのため、通常時よりもピットインの損失を小さくできる場合がある。

さらに、セーフティカーによって隊列がまとまる。
そのため、ピットインのタイミングによって順位が大きく変わることがある。

ただし、セーフティカー中のピットインにはリスクもある。

ライバルも同じタイミングでピットへ入るかもしれない。
ピットレーンが混雑することもある。
タイヤ交換のタイミングを間違えると、逆に順位を落とす場合もある。

セーフティカーは、単に安全のためだけの時間ではない。
チームにとっては、勝負を仕掛ける時間にもなる。

│再スタート時はどうなる?

セーフティカーとVSCでは、レース再開の流れも違う。

セーフティカーの場合、F1マシンはセーフティカーの後ろに並んで走る。
そのため、セーフティカーが解除されると、隊列がまとまった状態からレースが再開される。

このとき、前後の差は小さくなっていることが多い。
再スタート直後は、オーバーテイクのチャンスが生まれやすい。

一方で、VSCでは実際のセーフティカーはコースに入らない。
各ドライバーは決められたペースを守りながら走る。

VSCが解除されると、各車はその場から通常のレースペースに戻る。
セーフティカーのように、全車がひとつの隊列にまとまるわけではない。

つまり、セーフティカー明けはバトルが起きやすい。
VSC明けは、隊列よりもピット戦略の影響に注目したい場面である。

│ここだけ覚えればOK

セーフティカーとVSCの違いは、まずここだけ覚えれば十分である。

セーフティカーは、実際の車がコースに入る。
F1マシンは、その後ろに並んで走る。
そのため、順位差が大きく縮まりやすい。

VSCは、実際の車がコースに入らない。
全車が決められたペースまで速度を落とす。
そのため、セーフティカーほど順位差は縮まりにくい。

セーフティカーは、レースを大きくリセットすることがある。
VSCは、レースを止めすぎずに安全を確保する役割を持つ。

この違いが分かると、F1中継で「セーフティカーです」「VSCです」と聞いたときに、次に何が起きるのかを予想しやすくなる。

項目セーフティカーVSC
実際の車コースに入るコースに入らない
走り方セーフティカーの後ろに並ぶ決められたペースで走る
順位差大きく縮まりやすい比較的変わりにくい
追い越し基本的に禁止基本的に禁止
再スタート隊列がまとまった状態から再開VSC解除後にそのまま再開
レースへの影響大きい比較的小さい
戦略への影響ピット戦略が大きく変わるピットで得をする場合がある